RELAY INTERVIEW

単体作品では得られないレベルまで人間関係を高めることができました#7 A-1 Pictures プロデューサー:辻 俊一
これ以上はない、やりきったと言える作品を作ってくださいとリクエストすることが最大のこだわり#7 アニプレックス プロデューサー:足立和紀

劇場版「ペルソナ3」はこうして生まれた

いよいよ、第4章の公開まで残り1カ月を切りましたが、まずは現在の進捗状況と心境からお聞かせください。

辻 現在は、公開に向けて最後のひと押しという段階です。

足立 さきほど、A・Bパートを見させてもらったのですが、かなりいいフィルムに仕上がっていたので、公開が楽しみです。

辻 ありがとうございます。第4章は、時間的にも多少余裕があったので、そのぶん丁寧に制作できました。それもあって、心境としてはドキドキワクワクという感じなのですが、やはりこれで一連のプロジェクトが終わるのだと思うと、寂しい気持ちもありますね。ワクワク感が7割、寂しさが3割といった心境でしょうか。

足立 僕は寂しさより、ようやくみなさんに最終章をお届けできるという気持ちです。『ペルソナ3』のファンとしても、純粋に楽しみです。

そもそものお話なのですが、劇場版「ペルソナ3」のプロジェクトはどのような経緯で立ち上がったのでしょう?

辻 僕は、企画の立ち上げ時には別の作品に参加していて、じつは足立さんにお会いしたこともなかったんです。参加したのは、企画が動き始め、第1章のシナリオが完成してコンテの作業に入ろうかという段階で、編集の櫻井(崇)に呼ばれてという流れなんです。そのときはデスクなのか編集なのかもはっきりしないまま参加させていただいたのですが、気が付けば第3章ではプロデューサーになっていて(笑)。

足立 そうでしたね(笑)。企画の立ち上げとしては、TVアニメの「ペルソナ4」が好評だったので、アニメの『ペルソナ』というコンテンツをこのまま終わらせてしまうのは惜しいと思い、もう1度このスタッフで作品を手がけたいと考えたのがきっかけです。ちょうどそのころ、劇場でのイベント上映として「PERSONA4 the Animation The Factor of Hope」を公開する段階だったので、そこでのサプライズとして発表させていただきました。企画が本格的に動き出したのも、ちょうどそのタイミングなんです。あの時点ではほぼ何も決まっていない状態だったのですが、とりあえず発表用にとキャラクターデザインの渡部(圭祐)さんに主人公が召喚器をかまえている画を作ってもらったのを覚えています。

その時点で、すでに全4章構成という考えはあったのでしょうか?

足立 そうですね。企画を立ち上げるとなると、予算のことも考えなければいけないので、全4章という構成はおおざっぱにではありますが決まっていました。

4分割になった理由はあるのでしょうか?

足立 劇場アニメーションとはいえ、120分で『ペルソナ3』の物語を描き切ることは難しいので、やはり複数章での展開にはなるだろうと思っていました。ただ、4分割になったのは物語の構成的な要素ではなく、1年を春夏秋冬で描くという企画としての見栄えを意識した結果ですね。

複数章で展開することで、得られたもの、難しかったことなどありますか?

辻 約4年に渡って制作できたことで、スタッフ間の信頼を構築できたのは大きかったと思います。1本制作するごとに連帯感が生まれていって、単体作品では得られないレベルまで人間関係を高めることができました。


足立 最大でも120分という時間の束縛から解放されたのは、大きなメリットだと思っています。複数章で展開しなければ、重要なエピソードを削ることになっていたかもしれませんし、そうなると原作のファンには満足していただけませんからね。難しかったのは、僕自身というより、プロモーションの部分ですね。1度盛り上がっても、次の章まで期間が開くことで落ち着いてしましますし、そこから再び盛り上げなおすのは苦労があったと思いますよ。そうだ、プロモーションという意味では、個人的に辻さんにお聞きしたかったのですが、有名な作品だとスタッフのモチベーションも上がるものなのですか?

辻 やはり話題の作品のほうが、スタッフを集めやすいという側面はありますよ。もちろん、スケジュールやギャラも関わってきますが、原作となる作品が好きだという人のほうが声をかけやすいですからね。

足立 原作のファンというなら、モチベーションが上がるのは当然かと思いますが、原作は知らないけど有名な作品だからという理由で参加される方もおられるのかなぁと。

辻 少なからずいらっしゃいますよ。有名な作品なら、スタッフロールに自分の名前が載ったときに名刺代わりになりますから。

また、劇場版「ペルソナ3」と平行してTVアニメ「ペルソナ4 ザ・ゴールデン」も制作されていましたが、これにはどういった意図があったのでしょう?

足立 クロスメディアプロモーションという形で、『ペルソナ』を盛り上げようというのが1番の理由ですね。あのころは、ゲームの「ペルソナ5」の情報も出始めていましたからゲームで興味を持った人にアニメも見てもらう、もちろんその逆の流れにも期待していました。また、TVアニメの「ペルソナ4 ザ・ゴールデン」で興味を持って、劇場版「ペルソナ3」も見てみようと思ってもらえる流れを作るためにも、いかにさまざまなメディアで作品を継続できるかがテーマになっていました。

このチームだからできた劇場版「ペルソナ3」

公開まであとわずかとなった第4章ですが、お2人のお気に入りのシーンはどこですか?



辻 主人公の結城 理をはじめ、仲間たちが落ち込んでいるところから立ちなおる一連のシーンは好きですね。間の取り方や構図が絶妙で、さすが田口監督、と感じたシーンですね。

足立 さきほどダビング作業で見ていたのですが、僕は2つのシーンが印象に残りました。1つは、田口監督もこだわっていた雪のシーンです。細かい話になりますが、ムーンライトブリッジを俯瞰して描いたシーンにおける雪が落ちていくさまや、ストレガと真田(明彦)、(桐条)美鶴が教会で対峙するシーンで、光が当たった部分にだけ雪が見えるシーンはかなり印象に残っています。雪がいい意味で気になる存在として描かれているんです。

辻 そのシーンは、何度もリテイクを重ねて、監督もこだわっていました。

足立 すごくよかったですよ。あとは、演出としては定番でもあるのですが、理に(伊織)順平が詰め寄るシーンで、ガラス越しの順平の表情が見事でした。2人が向き合うシーンは、単純に作ると横からの構図になりがちなのですが、理を正面に向かせて、後姿になる順平の表情をサイドボード越しに見せるという対比の構図は、うまく描いているなと感じました。

そのほか、プロデューサーとしてこだわった部分などはありますか?

辻 ストーリーは原作がしっかりしていますし、画的な部分ではスタッフを信頼しているので、映像作品としては僕が口を出す必要はなかったと思います。プロデューサーとしては、スタッフがいかに気持ちよく作業できる環境を作れるかという点にこだわってきました。4作品、約4年の制作となると、いろいろな人が関わることになりますから、スタッフと積極的に話して意見を聞いたり、スタッフの相性を考えて座席を配置したり、自分なりにスムーズに作業できるよう努力はしたつもりです。

足立 僕としては、みなさんに悔いの残るようなことをしてほしくないと願っただけです。「超絶作画をお願いします」と言うだけなら簡単なことですが、それでは悪い意味でプレッシャーをかけてしまいますからね(笑)。 それよりかは、これ以上はない、やりきったと言える作品を作ってくださいとリクエストすることが、最大のこだわりでした。

そんなスタッフについて、プロデューサーとしての総評もお聞きかせください。

辻 それは点数でということですか(笑)。

足立 演出:○点! みたいな(笑)。

辻 冗談はさておき、とても満足していますよ。このチームで制作できてよかったという思いです。ただ、点数はひかえさせてください(笑)。

足立 評価する立場ではなく、僕も制作スタッフの1人ですからね。ただ、1人では絶対にできない作品になったとは思いますし、この手作り感満載なところがアニメーションの魅力なんだと考えると、いいチームだったなと思いますね。

では、改めて『ペルソナ3』の魅力とはどこにあると思われますか?


辻 すごく抽象的な話になってしまうのですが、『ペルソナ3』のロゴを見たときに、この作品が持つ雰囲気や世界観がバッと頭のなかに広がるんです。『ペルソナ3』とは長い付き合いになりますし、すごく思い入れのある作品です。それだけの作品とめぐり合う機会はなかなかあるものではありません。そうした作品になると、自分のなかのピースの1つになっているような感じもして、ロゴを見るだけでも作品が持つビジュアルを明確に描けるようになるんです。それだけの力を持った作品だということが、『ペルソナ3』の魅力なんだと思っています。

足立 『ペルソナ3』はゲームが原作ですが、プレイした人がそれぞれにさまざまな解釈を持てるシーンが用意されていますよね。受け手側が考える余地がある、答えを押し付けられていない、そこが楽しい部分なんだと思うんです。我々アニメーションを作る側は、アニメを制作するなかで、そうしたシーンをどう解釈していくかを考えます。その結果、自分たちにとっての『ペルソナ3』という作品が完成する。あえて未完成な部分、答えを用意していない部分が絶妙な作品なんだと感じていて、そこが『ペルソナ3』ならではの魅力なのではないかと思っています。

最後に、公開を楽しみにしているファンに向けてメッセージをお願いします。

辻 第1章から考えると、長い間お待たせしました。これでラストになりますので、精一杯楽しんでいただければという思いに尽きます。

足立 結城 理というキャラクターの物語のエンディングになりますので、楽しみにあと少しだけお待ちください。そして、今まで応援していただいてありがとうございました。

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