RELAY INTERVIEW

第4章では、同じ背景でも積雪の違いに注目してほしい。#4 美術監督:谷岡善王(美峰)

世界観を映し出す背景の技

はじめに、谷岡さんがどういった経緯で劇場版「ペルソナ3」に関わることになったのかをお聞かせください。

劇場版「ペルソナ3」には、元々弊社(美峰)の小濱俊裕が携わっていたのですが、小濱が忙しくなったので、そのヘルプとして参加したのがきっかけでした。それが、第1章のPVの第1弾でした。そこから、美術監督として本編にも参加させていただいています。

美術監督というお仕事ですが、具体的に作品のどのような部分を担当されているのでしょう?

美術ボードと呼ばれる画面のイメージを作って、それを背景スタッフに託します。そこから上がってきた美術背景の品質管理が主な仕事になります。

背景の設計ということは、ロケハンなども行うものなのでしょうか?

作品によっては行うこともありますね。ただ、『ペルソナ3』は現代劇なので、比較的身近なもので制作できました。『ペルソナ3』は、埋立地であるポートアイランドが舞台になっているので、お台場などはかなり参考にしているんです。また、背景だけではなく、小物類も、美術チームが設計しています。『ペルソナ3』は2009年が舞台になっていますが、時代的に最新ではないのですが、そこまで古くもないという時代設定は、微妙に現代と異なる部分があったりして意外と苦労も多いんです。

例えば、どのような部分が現代と異なるのでしょう?

2009年といえば、テレビがまだブラウン管なんですよ。あとは、岳羽ゆかりが使っているノートパソコンも、今だったらタブレットなのかなとか、時代考証は細々とした部分まで気を配っているんですよ。ただ、その気配りが活かされることはそれほどないのが悲しいところなのですが(笑)。

そのなかで、『ペルソナ3』ならではの特徴を挙げるとすれば?

やはり、『ペルソナ3』の非日常感がパッと見て伝わる影時間は大きな特徴だと思います。また、影時間とひと言で言っても、その表現は章ごとに変えている部分もあって、とくに顕著なのが第1章と第2章ですね。第1章では、絵画的な表現を出していたのですが、第2章では写実的な空間の表現を意識して制作しました。その違いを出しつつも、影時間としてきちんと伝わるようにするのが僕たちの仕事です。影時間は緑という、現実でもなかなか見られない空間を表現することになるので、その違和感を感じさせつつも、本当に実在するかのようなリアルさも表現しなくてはいけません。それは、キャラクターに関しても同じことで、キャラクターも2次元の存在ですが、そこにいるように感じられる3次元的な見せ方を心がけています。そのために、煙のようなモヤを描いて、そこに照明を当てることで、立体感や奥行きというものを演出することもあります。このあたりは、洋画の影響が強く、「エイリアン」や「ブレードランナー」といった作品の照明の当て方はかなり参考にしていますね。

『ペルソナ3』は現代劇ですが、ファンタジーやSF作品を描く際は、どのようなものを参考にされているのでしょう?

洋画などを参考にすることは多いですね。また、美術の依頼をいただくときには、すでにキャラクターのイラストなどが完成していることも多いので、キャラクターのデザインや身につけているものから、なぜこのキャラクターはこんな衣装なのか、こんなものを身につけているのかということを考えながら制作していくこともあります。

では、劇場版「ペルソナ3」のなかで、背景や小物など、美術監督としてここに注目してほしいというシーンはありますか?

第2章の冒頭で戦う、ホテルのシーンは美術的にいろいろとこだわったので思い入れがあります。部屋ごとにデザインやカラーも異なりますし、SMやコスプレなど小物にもかなり作りこんでいて、描いていて楽しかったです。ただ、バトルで一瞬にして壊されてしまうんですけどね(笑)。あとは、同じく第2章になりますが、縁日のシーンの屋台はすごくこだわって作っているんです。看板などもすべてこの作品のためにいちからオリジナルで作っていますし、入口付近に匂いが出る屋台を配置するなど、縁日シミュレーションのようにいろいろ考えて作りましたね(笑)。

ちなみに、美術監督としてではなく、谷岡さん個人として気に入っているシーンは?

第2章の花火のシーンはすごく気に入っています。あのシーンって、劇場版「ペルソナ3」でみんなが1番幸福なシーンというのが、その理由です。また、そのなかで天田 乾の「こんな日が、これからもずっと続けばいいのに」というセリフが、キレイなものは儚いという花火との対比になっているのも、その先の展開も含めてとても心に残るシーンでした。あのシーンがあったからこそ、第4章のラストが映えるいいシーンだと思います。

冬の表現がポイントなる第4章

美術面において、第4章はどのような特色があるのでしょう?

第4章に限らず、劇場版「ペルソナ3」は章ごとに季節が異なるので、同じ場所であっても違う風景として描く必要があります。そういう意味で第4章は、冬という季節が大きな特色になっています。とくに、積雪は丁寧に描いていて、徐々に積もっていく雪の背景をいくつかの美術ボードで描き分けるほどこだわっているので、同じ背景でも積雪の違いにも注目していただけるとうれしいですね。

本作は劇場アニメですが、TVアニメと作り方は異なるものなのでしょうか?

考え方が違ってきますね。劇場作品は暗い部屋で大きなスクリーンに映像が投影されます。そうしたとき、人の視界は限られているので、どうしても見られる範囲が限られてしまう。そこで、見るポイントを絞ってわかりやすい画作りを心がけるようにしています。たとえば、見てもらいたいポイントに光を当てるなどという工夫がありますね。第4章でも、田口智久監督から、画面を暗くしてほしいという要望があって、その暗い空間に光で絵を描いていくという映画的な画作りを考えているんだなと感じました。

そんな劇場版「ペルソナ3」の制作チームですが、谷岡さんから見てどんな特徴がありますか?

すごく意見が出るチームだと思っています。それは、お互いの能力を認めているからということもありますし、監督をはじめスタッフがうまくまとめてくれている信頼関係がなせる技なのでしょうね。それぞれが、作品に対するハッキリとしたイメージを持っているので、すごく具体的な意見が出るので、打ち合わせに行くのが楽しみだったりします(笑)。やはり、その根底にあるのは『ペルソナ3』という作品への愛なんだと思います。

みなさんにお聞きしていることなのですが、『ペルソナ3』のなかでお気に入りのキャラを1人挙げるとすれば誰になりますか?

僕は天田ですね。子供ということもあってか、感情の振り幅が広くて人間臭いところに共感できるんです。ほかのキャラクターは、高校生とはいえ落ち着いたキャラクターが多いので、そのなかで感情の自制がきかない天田の表現力の広さは見ていて楽しいですね。あと、コロマルと触れ合っているシーンは見ているだけで癒されます(笑)。

最後に、劇場版「ペルソナ3」第4章を楽しみにしているファンに、メッセージをお願いします。

第4章は、劇場版「ペルソナ3」の集大成を作るという意気込みで、スタッフ一同気合を入れて制作しています。劇場アニメという部分を強く意識して作っているので、映画館で見ることでよりその楽しさが伝わる作品だと思います。1人でも多くの方に劇場まで足を運んでもらえればうれしいですね。

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