SPECIAL

『ペルソナ3』の役者さんはうまい方ばかりで本当によかった#5 音響監督:飯田里樹

“音”が作り出す「ペルソナ」の世界

飯田さんが劇場版「ペルソナ3」に関わられたのは、やはりTVアニメ「ペルソナ4」がきっかけになるのでしょうか?

そうですね。TVアニメ「ペルソナ4」でも音響監督という形で関わらせていただいて、その流れで本作もという感じです。

そのTVアニメと劇場版では作り方のようなものは変わるものなのでしょうか?

テレビの場合、多くのお客さんは「食事をしながら」「携帯をいじりながら」といった風に、何かをしながら視聴するということが多いもの。そこで、音楽の切り替えを多めにすることで、お客さんの意識をテレビに戻すという工夫をしています。逆に映画の場合は劇場でじっくり集中してみるので、音楽は少なめにして、ここぞというところで効果的に流します。第1章は、このセオリーに乗っ取って、劇伴を切り替える回数をひかえていたりしたのですが、第2章からは劇伴も場面転換に合わせてバンバン変えるという作り方に変えています。というのも、『ペルソナ3』という作品は、登場人物たちがそれぞれ異なる問題を抱えて行動している群像劇なので、消化しなきゃいけないイベントが多いんです。当然展開も早い。だったら曲もバンバン流してジェットコースタームービーにしてしまおうと。

そうした劇伴のほかにも、作品のさまざまな“音”に関わるお仕事とは思いますが、音響監督とはどのような作業を担当されているのでしょうか?

作品の音響に関わる演出をするというのが、音響監督の仕事です。劇中で音楽をどこで流すかといったことを決めたり、キャストを選定したりといったことが主な役割ですね。劇場版「ペルソナ3」はゲームという原作があるので、キャストさんは基本的にゲームと同じ方に演じていただいていますが、ゲームには登場しない生徒Aなどのモブなどは新たにキャスティングする必要があります。また、劇伴ではゲームの音楽も使用していますが、アニメ用にオリジナルの楽曲を発注することもあります。その楽曲発注で、現在絶賛悩んでいるところなのですが……(笑)。

第4章には、それほど音楽の演出が難しいシーンがあるのでしょうか?

第4章の冒頭で、ある重大な事実が告げられ、前半のシーンは主人公の結城 理をはじめ、仲間たちが全員落ち込んでいるんですよ。前述のとおり、8人全員にそれぞれのドラマがあるので、8人8様の落ち込み方で描かれます。同じ落ち込んでいるシーンの連続とはいえ、ずっと同じ曲を流すわけにもいかず、かといって曲を流さないというのもセリフが少ないシーンなので難しい。というところで、どうしようか悩んでいます。また、後半は最終決戦になるので、原作ファンの皆様にも人気も高いあの楽曲たちをどのように使うかというのも課題です。どう解決したのかは、実際に劇場で確かめてみてください(笑)。

ほかにも、楽曲の使い方で苦労されたことなどはありましたか?

劇場版では望月綾時のテーマとして「Mistic」という楽曲を使用しているのですが、第4章のどこでこの曲を使うかは悩みました。というのも、原作だと綾時が重大発言をするシーンは大体この曲が使用されているのですが、第4章では綾時が重大発言をするシーンばっかりなので(笑)。全部「Mistic」にするというわけにはいかないですしね。

役者の力をより強く感じられる第4章

第4章は、すでにアフレコも終えられたということですが、音響監督という立場からの見どころといえば、どのような点になりますか?

すでにお話したように、第4章はとても重い空気感の内容になっています。そうした空気感をうまく伝えるには、役者さんの力量がかなり問われるものなんです。そういう点では、『ペルソナ3』の役者さんはうまい方ばかりで本当に助けられました。第4章は、役者陣の繊細な演技が見どころ、聴きどころです。重い内容になると、台本にも「……」や「はっとする」とか「憂いを帯びた息」といったト書きが多くなります。そうしたしゃべらない演技は難しいものですが、『ペルソナ3』の役者さんはどなたも素晴らしい演技を見せてくださいました。とくに、結城 理役の石田 彰さんやアイギス役の坂本真綾さんは大変だったと思います。

石田さんは、理だけでなく綾時やファルロスも演じられていますからね。

シーンによっては、ページをめくってもめくっても石田さんのセリフばかりということもありましたからね(笑)。今回の収録では、綾時だけ先に収録して、理のセリフはほかの役者さんと一緒に綾時の演技を聞きながら収録するという手法をとりました。石田さん自身も演技にストイックな方なので、「今の演技は理と綾時が似ていたから、もう1度やらせてください」と自らおっしゃられることもあって、そうしたこだわりは作品の随所で感じられると思います。坂本さんは、第2章、第3章はロボットとしてアイギスを演じていただきましたが、第4章ではそれまでにはなかった息の演技が増えています。その演技のおかげで、アイギスの人間らしい部分が感じられるものになったと思います。もちろん、ほかの役者さんも、桐条美鶴や岳羽ゆかりなら父親のことで、山岸風花なら森山夏紀のことで、伊織順平ならチドリのことで、とそれぞれにドラマがあって、その役柄を十二分に表現する素晴らしい演技をしていただけました。役者さんたちの演技のおかげで最終章がかなり熱く盛り上がりました。

では、第3章まででお気に入りのシ-ンを挙げるとすれば、どのシーンになりますか?

第2章で、荒垣真次郎がコロマルにご飯を作ってあげているところをアイギスがじっと見ているシーンですね。ギャグシーンに真面目な曲を流すという手法を私はよくやるのですが、このシーンでは原作のバトル曲である「Mass Destruction」をBGMで使用しました。ベイベベイベでおなじみの曲です。いろいろな方から「あのシーンであの曲を使うのは卑怯だ」と言われました。

お気に入りのキャラクターを挙げるなら、どのキャラですか?

強いて言うなら、主人公の結城 理ですね。第1章のときはあまり好きではなかったのですが、第3章を観て好きになったキャラクターなんです。綾時との出会いを経て、彼が人間として成長していく。無個性なプレイヤーキャラだった「主人公」が「結城 理」になっていく過程が面白かったです。ただ、実は飛びぬけて好きなキャラクターがいるわけではありません。いろいろな登場人物の思惑が絡み合う、群像劇こそが『ペルソナ3』の魅力だと思います。

さきほど、ニュクスのテーマとして原作にもある「Mistic」を挙げられていましたが、理のテーマ曲は制作されなかったのですか?

だって理の物語なんですから、流れる曲全てが理のテーマってことですよ(笑)。劇場版「ペルソナ3」ではアイギス、綾時、チドリの3キャラにアニメオリジナルのキャラテーマメロディを作っていただきました。彼らにテーマ曲があるのは途中参加する新しい要素だからです。「この人が登場したらこの曲が流れる」というのがテーマ曲の正しい使い方なので、ずっと登場している人にテーマ曲はいらないんです(笑)。アイギスやチドリのテーマメロディはアレンジを変えて何度か流れています。そのあたりも気にして聴いてもらえると、新しい発見があるかもしれませんよ。

最後に、ファンのみなさんにメッセージをお願いします。

『ペルソナ3』は、先に『ペルソナ4』がテレビアニメ化して、さらに劇場アニメ全4章という形でお届けすることになって、本当にファンの皆様を待たせてしまった作品だと思います。ただ、お待たせしただけのクオリティにはなっていますので、ぜひ劇場まで足を運んでいただきたいです。また、劇場版「ペルソナ3」は、ゲームとは異なる主人公である結城 理の物語になっています。私自身、第1章のときにこんな主人公で大丈夫か? と思いましたが、彼の集大成となるドラマが用意されていますので、どんな結末を迎えるのかをぜひ劇場でご覧ください!